🎹 Clé du Sol

Competition Judges Insight

ピアノコンクールの審査員は、
いったい何を見ているのか

公開されている「採点方式」と、審査員自身が語った「視点」という二つの手がかりから、
審査という営みの実像を描いてみます。

01 — 審査基準は非公開

「審査基準」は公開されていない

コンクールを目指す人なら一度は思うはずです。「審査員はあの数分間に何を見ているのか」と。

実は、その答えを明文化した評価項目表は存在しません。ピティナも日本バッハコンクールも、公開しているのは採点の方法(何人で、何点満点で、どう集計するか)であって、「音色◯点、様式◯点」という明細ではないのです。

だからこそこのコラムでは、公開されている「方式」と、審査員自身が語った「視点」という二つの手がかりから、審査風景を描いてみます。

02 — 相対評価の仕組み

すべては「相対評価」で決まる

ピティナは、音楽に絶対の評価はあり得ないという考えのもと、原則5名以上の審査員による相対評価で順位を決めると公式に説明しています。

地区予選は10点満点、上位級は最高点・最低点をカットした平均点で通過者を決める仕組みです(開催概要)。

日本バッハコンクールも同様に、5名の審査員の平均点で賞を決定します(審査結果ページ)。

実際の参加者ブログより

10点満点中8.13点で、予選通過ラインの8.47点にわずか0.34点届かなかった。標準偏差はわずか0.09だった。

出典:MrBachLoverブログ「バッハコンクールの採点結果は…」

上位帯では審査員の評価がほぼ揃い、0.1〜0.3点の僅差が合否を分ける構造だということです。

03 — 審査員は何を聴いているか

審査員は何を聴いているのか

ピティナが公開した審査員アンケートには、声部の弾き分けや和声理解、身体の使い方、歌うような音の運び、そして個性の有無まで、複合的な観点が並びます。

ある審査員のアンケート回答より

教えこまれて上手な子はたくさんいますが、本人の音楽性・個性が聞こえる子を評価してのばしてあげたい

出典:ピティナ「審査員は何を聴いているのか」

現役講師が公開している審査基準はより実務的で、楽譜理解と音楽の流れ、音色のコントロール、曲全体のまとまり、メロディーと伴奏のバランス、テクニックの5点を主な観点として挙げています。1音目の始まり方だけである程度レベルが分かる、という証言も印象的です(note「審査員として思っていること」)。

04 — 聴いている世界が違う

「聴いている世界が違う」という現実

審査される側と審査する側を経験したピアニストは、評価軸が審査員ごとに異なる理由を、音色や倍音を聴き取れる耳の差として説明しています。

良い演奏でも落とさざるを得ないケースが実際にあると明かしています(関根希美子「耳が変わったとき、審査員の見ている景色が見えた」)。「審査員次第」という現実は投げやりな話ではなく、前提としての事実だということです。

05 — 講評と入賞者の違い

講評の中身と、入賞者を分けるもの

ピティナの特集記事では、同じ演奏に「速すぎる」と「このテンポ感が好き」という正反対の講評が並ぶ実例も紹介されています(採点票をもっと!活用しよう)。講評は「その審査員がどこまで聴いているか」の記録でもあるのです。

ある指導者は、結果に一喜一憂せず講評の指摘を一つずつクリアしていく子ほど1〜2年後に大きく伸びると述べています(note「採点票(寸評)をどう読み解くか」)。

また金賞獲得者への分析では、入賞する演奏には客観的に自分の音をコントロールする耳という共通点があるとも指摘されています(note「審査員は"変態"がお好き」)。

06 — 受験者への示唆

受験者への示唆

  • 審査は相対評価であり、評価軸は審査員ごとに違う:「全員に受ける唯一の正解」を探すより、どの審査員にも伝わる基本を底上げする方が確実です。
  • 審査員が挙げる観点は驚くほど一貫している:声部の弾き分けと和声理解、歌うような音の運び、音色のコントロール、曲全体の構成感、個性——当たり前の基本を当たり前以上に仕上げることが差になります。
  • 講評は「課題リスト」として使う:一つずつ潰していく姿勢が、長期的な伸びに最も効くと複数の審査員が語っています。
  • 「無難」は選ばない:予選通過のための安全策は、個性の評価と引き換えになりがちです。

審査員は点数や速度の羅列だけを見ているわけではありません。構造を理解しているか、音が歌っているか、その人だけの音楽が聴こえるか——目に見えない物差しで、わずか数分の演奏を測っています。基準が非公開であることは、裏を返せば「どこまでも高められる」ということでもあります。

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